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東洋経済オンラインのナンに関する記事は信用するな

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「東洋経済オンライン」の『インド人が驚く日本の「ナン」独自すぎる進化~ホッピーもある「インネパ料理店」てなんだ』という記事については、黙っていようと思っていた。あまりに間違いが多すぎる。しかし、それらを自ら率先して訂正するほど暇でもない。だから無視するのが一番だと考えた。
https://toyokeizai.net/articles/-/278786

ところが、ヤフーニュース等にこの記事がフィーチュアされ、軒並み閲覧数トップだという。これはさすがにまずいと思った。インド料理やスパイスについて無知や誤解の蔓延するこの日本、さらに日本人の頭の悪さに拍車がかかってしまう


細かく指摘していくとキリがないので、いくつか例を示そう。

カレーの本場・インドでは、こうした大きなナンはまず見られないという。
→なるほど、日本のナンはたいてい大型だ。しかし、インドに日本のように大きなナンがないということはない。ちゃんとあるのだ。デリーやムンバイ、コルカタなどのレストランに行けば、小さいのもあれば、東京と同じサイズのものにも出会う。

なぜ日本のナンは、インドよりも大きくなったのか。
→繰り返すが、インドにも日本並みに大きなナンは存在する。それに、小さかったナンがだんだん多くなったのではない。1980年代、すでに東京では大きいナンもあれば、小さいのもあった。

その謎を解くカギが、近年激増しているインド・ネパール料理店、通称「インネパ店」にあった。
→大きなナンとインド・ネパール料理店の因果関係は薄い。というか、単にインド・ネパール系レストランの特徴であり、日本のインド料理全体に当てはめることはできない。詳しくは後述。

ところが、インドには北インド料理以外にも、南インドスタイルや、東インドのベンガルスタイルなど、土地によってさまざまな料理が存在する。
→東インドのベンガル料理は、「北インド料理」に含まれる。この原稿の筆者は、インド料理の基本的な分類もできていない。完全に勉強不足。

多くはナンが主食ではない。にもかかわらず、日本にはなぜインドの一地方に過ぎない北インドのスタイルが圧倒的な主流となっているのか。
その理由は意外にもロンドンにあるというのが、南インド料理店「エリックサウス」などを展開する円相フードサービス専務の稲田俊輔氏だ。
→完全な間違いとしかいいようがない。この珍説は初めて聞いた。
→日本で北インド料理メインなのは、インドのスタイルを踏襲したのであり、ロンドンの影響ではない。

ヨーロッパ人向けのレストランということで、そこでは肉をメインとしたカレーやタンドール料理、そしてパンに趣が近いナンという、いわゆる北インドの料理をベースとし、さらにそれを食べやすくアレンジしたスタイルが定着します。その後、当スタイルはインターナショナルインド料理として各国に広まり、逆輸入の形でインドにも入りました。そうして伝播した国々の一つに、日本もありました」
→完全に間違い。日本へは当初ロンドン経由でインド料理は入っていない。
→それに「ロンドン」といっても、ブリックレインのカバブやタンドゥール系庶民派レストランとインド・タージグループの精鋭が集まってできた「ボンベイ・ブラッセリー」では、同じ「ロンドンのインド料理」といっても、まるで別物。「ロンドンのスタイルを輸入」などと大雑把なくくりで説明するのは、乱暴だと思う。
→モティ、マハラジャ、サムラート、ラージマハール、ザ・タージ、アショカなど、日本のインド料理勃興期を支えた「宮廷料理」系北インドレストランは皆デリーやボンベイの名店を模範にしていた。ロンドンではない。そういった話は、私が各店オーナーや関係者から直々に聞いている。

「日本人が喜ぶものをということで、ナンはどんどん大きく、甘く、ふかふかになっていきました。
→そもそもインドのナンにはパンジャーブ型とイスラーム型の二つがあること、ここから説明しないとナンの秘密は解き明かせないはず。この点、まったく言及がないのも不自然かつ不親切。
→ナンは日本人の好みに合わせ、大きく甘くフカフカになったのではない。

また、意外と気づきにくいところで大きかったのが、カレーのグレービー(汁気)の分量です。以前はグレービーと具の分量はおおよそ半々だったのが、グレービーが多いカレーに慣れ親しんだ日本人のニーズに応え、今やグレービー8・具2くらいの割合になっています。
→これも日本人の好みに合わせたわけではないはず。主たる理由はコストダウンだろう(ネパール系レストランは、絶対に認めないだろうが)。こういうネパール系のやり方に対して、インド人シェフが怒るのもわかる気がする。グレービー過多のカレーはバランスがわるく貧相、私も嫌いだ。

ナンについてきちんと考察すべきところ、はっきりした結論が書いてないように私は思った。代わりに「インド・ネパール料理店は素晴らしい」みたいな結論で締めくくっているのは、あまりに脳天気な感じがする。

大きいナンが日本の主流なのは、1980年代以前、「インド・ネパール」系レストランが出現する前からすでに事実としてあった事柄だ。だから、ナンの大きさを「インド・ネパール系レストラン」の登場や発展と絡めて語ること自体、中途半端で不完全な話なのである。
このことについて、この記事の登場人物たちは理解していない。そりゃあ、そうだ。リアルタイムで、その時代、インド料理に関わっていなかったのだろうから。一方、私はその時期、インド料理店で修業の真っ最中だった。

なぜ、その頃から大きめのナンが主流だったのか。
小さいものを2枚焼くより、大きいのを1枚焼く方が、仕事として楽だから。
また、ネパール人が学んだナンはたいてい「パンジャーブ」型で、これはサイズ大きめに作りやすい。テクニックのないネパール系タンドゥール担当でも、何とか焼けた。

繰り返すが「インド・ネパール系レストラン」(「インネパ」と短縮するのは嫌いだ。個人的な意見だが、どこか見下した感じがするのだ)について書きたいのか、ナンについて書きたかったのか。
この原稿からは、よくわからない。
SNS等で執筆者(私は、問題ありとご本人宛メールしたが、まったく訂正もせず、宣伝コメントに終始。私も軽んじられたものだ)、登場人物とも自信ありげにいろいろ語っているし、手放しでほめちぎったコメントも多い。私としてはただただあきれるばかり。

インド・ネパール系レストランとナンの関係を解読したいなら、ネパール系料理人が日本で働く前、どこでどのような修業をどの程度積むのがふつうか、まずはそうした点に言及していただけるとよかった。

インド料理に限らず、生半可な知識と経験しかない者が意思を伝えるツールを持つと恐ろしいことになる。謙虚に精進しよう。

イメージ 1
見事なイスラームスタイルのナーン。

イメージ 2
デリーの名店、モティマハールの「ログニ・ナーン(バターを利かせたナーン)」。サイズは日本並みに大きかった。

《このブログを書いているときのBGM》
PARIS『PARIS』(1976年)
スタジオで撮影取材のBGMにかけたら、ライターとカメラマンの方々がすかさず反応。
https://www.youtube.com/watch?v=62AX-et_NeM
A面1曲目。いきなりツェッペリン。 

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http://yummysdish.exblog.jp/ 

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